『部長さん、なぜ社員に伝えてくれないの?』
- 勉 亀谷
- 2月27日
- 読了時間: 4分
更新日:4月5日

企業理念が決まった。部長たちも関わった。夜まで議論もした。正直、私は安心していました。「彼らが、社員に伝えてくれる」と思っていたのです。
ところが、部署別の説明会が始まると空気が違う。ある部は熱い。別の部は、静か。私は焦りました。いや、かなり焦りました。「あれ? 一緒に作ったよね?」と。
そのとき、部長から一言。「亀谷さん、正直に言うとね。これ、まだ俺の言葉じゃないんだよ。」
ぐさっときた。図星でした。正しいことは全部書いてある。でも、その人の声じゃない。すると隣の部長が笑いながら言ったんです。「俺はさ、こう思ってる。これって結局、“うちの強みを取り戻せ”って話だろ?」その瞬間、もっと刺さりました。若手がうなずき、腕を組んでいた課長が顔を上げた。ああ、これだな、と思いました。
理念は、関わっただけでは動きません。誰かが自分の言葉で言い直したとき、はじめて血が通います。あの頃は、それを分かっていませんでした。私は「参加したんだから伝えてくれるよね」と、どこかで甘く見ていたのだと思います。
それ以来、私は必ずこう聞いています。
「あなたの言葉で言うと、これはどういう意味ですか?」と。
だいたい、そこで少し沈黙します。でも、その沈黙から本当の理念浸透が始まる。そこから少し揉めることもありますが、私はそれも悪くないと思っています。良い揉め事ですから。
書いてある言葉ではなく、あなたの言葉で言い換えるとどういうことか。今度、社員や部下に聞いてみてください。沈黙の先に、思考と行動が生まれるはずです。
1. これは、いったい何が起きていたのか?
それは、とても単純なことでした。理解することと、伝えることは別だった、ということです。
私は理念づくりの場は用意しました。部長たちが議論に参加し、納得し、理解する場です。そこまでは設計できた。しかし、理解した理念を自分の言葉で言い換える場までは設計していませんでした。
つまり、理解は共有された。でも、「伝える」という行為は個人に委ねていたのです。伝える力に差があるのは当然です。そのことを前提に設計していなければ、その差がそのまま部門の温度差になります。あの部長さんの一言は、その構造をはっきりと浮かび上がらせてくれたのです。
ここで視点を少し広げます。医療の現場では、事故が起きたときに個人のミスだけで片づけず、環境に問題がなかったかを検証するそうです。能力の差があっても機能する設計になっているかどうかを見る。理念浸透も同じです。
個人の伝える力を高めることは大切です。しかし、それだけでは足りません。理念を自分の言葉に翻訳できる環境を整えているかどうか。そこが理念浸透の分かれ目です。私はこれこそがインナーブランディングの鉄則だと考えています。
2. 理念浸透の構造を整理すると
ここまでを構造で整理してみます。理念浸透には三つの段階があります。
■ STEP -1:
策定参加 = 理念を理解する
■ STEP -2:
自分の言葉で語れる = 理念を翻訳する
■ STEP -3:
行動変化 = 翻訳が連鎖する
多くの場合、STEP-1までは到達します。しかし、実際に動き出すのはSTEP-2からです。理解した理念が自分の言葉に置き換わったとき、人は初めて語ります。そして、その言葉が次の人に渡るときに、行動の変化が始まります。
3. だからこそ、環境整備が必要になる
理念浸透を「話し上手を増やすこと」だと捉えると、研修やスキルアップに意識が向きます。それも必要です。しかし、能力の差はなくなりません。大切なのは、その差があっても理念が翻訳される設計になっているかどうかです。
翻訳が起きやすい問いがあるか。言い換えを歓迎する空気があるか。沈黙が失敗とみなされない場になっているか。こうした環境が整っているとき、翻訳は自然に起きます。
4. 明日からできる、翻訳の環境整備
では、具体的に何をすればいいのか。理念や中期経営計画を共有するときだけでなく、「どうも伝わっていない」と感じたときに、次の三つを試してみてください。
■ 最後に一問置く:
「あなたの言葉で言うと、これはどういう意味ですか?」
■ すぐに埋めない:
沈黙を2分待つ
■ 可視化する:
出てきた言葉をホワイトボードに並べ、話し合う
特別なテクニックではありません。能力の差を前提に、それでも翻訳が起きるようにするための、シンプルな環境整備です。
5. まとめ
インナーブランディングとは、理念や中期経営計画を社内に浸透させる取り組みです。難しく聞こえるかもしれませんが、要は社内コミュニケーションの設計です。その中でも、今日お話ししたのは「翻訳」。理念が翻訳され、連鎖する環境を整えること。それができれば、無理に人を変えなくても、組織は少しずつ動き始めます。
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人を変えるより、場を整える。
亀谷 勉 Tom KAMEGAI
組織強化のインナーブランディング専門家
グラビティーワン 代表|一橋ICS ブランド戦略講師を15年間担当




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